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米国(州立)大学の授業運用について書いてみる

おひさしぶりです。tkmです。

90日更新内容広告が出てしまったので、今回は学部生の授業で採点係をやった経験をもとに、米国大学の授業の運営について諸々書いていきたいと思います。

私は今回採点係でしたが、指導教員の授業なのと指導教員が来年TAやって欲しいからとTAと同等以上のタスクをこなしたので学期通しての一連の流れは把握しています。

採点係(Reader)とTA

採点係の呼び方は大学によってまちまちですが、UCIではReaderという呼び方をします。(Greaderと呼ぶところも)

履修人数が50人を超えると50人毎にTAか採点係をつけることが出来ます。50人を下回る大学院の授業なんかはLecturer(教授)が全部やらないと行けないので結構大変です。

今回私が担当した授業は130人履修で、2TA+1Readerの体制で捌きました。↑の計算式より一人多いですが昨年実績で割当が決まるのでこの体制でした。

TAをやるには学内英語試験突破 or TOEFL iBT Speaking 26点以上が必要なので、Ph.D.留学生の最初の学期は大体が採点係をやることになります。

TAとReaderの業務の差異としては、一応Readerは学生と対面する業務(Office hour、演習授業の実施、代打授業など)は出来ずにまさに採点要員となります。

ただ運用自体はLecturerに任されており、私の場合はOffice hourの実施、試験&宿題問題作成、1コマ代打授業、LecturerのOffice hour代打などほぼTAと同様以上の業務になりました。

給料はTAのほうがもちろん高給ですが、PhD学生の場合、入学時に給与が決まっているので差はでません。ただ採点係は時給制なので2週間毎にタイムシートの提出が義務付けられていたり、労働時間が保証給料額に届かない場合は補填を申請したり少し面倒があります。

修士学生がTAをやると授業料半額免除+1学期$7,000が貰えるそうです。Readerは基本PhD学生で埋まるので詳細は知りません。

TAも基本はPhD学生優先ですが、今期に限っては中国人にビザが降りない問題で人手不足らしく修士の人もTAは比較的できたようです。

またReaderの給料はDepartmentが出していて、TAの給料はSchoolが出しており、Departmentとしては一刻も早くReaderからTAになって欲しいという事情もあります。

補足: GSR (Graduate Student Researcher)

少し横道にそれますが、PhD学生の給料はTAとReaderをやる以外に指導教員が給料を払うというGSRというオプションがあります。日本でいうRAです。

後述しますが、TAとReaderの業務量はかなり多いので研究にかなり支障があります。

幸いにしてウチのCS学部はお金持ちでかなりの学生がGSRで雇用されています。ただ卒業要件にTAもしくはReaderを最低2 quartersとあるので、やらずに卒業という事は出来ません。

聞いた話によるとComputer Engineering学部はお金がなく、PhD学生もずっとTAをやらないと行けないという話を聞きました。普段学位名を気にすることはありませんが、お金の有無には影響しそうです。

タイムライン

Quarter前: 履修登録

Webシステム上から履修登録をします。大体学期の1ヶ月前から履修登録が出来るようになり、学期が始まった最初の2週間は自由に履修の登録・取下げをすることが出来ます。

人気授業の場合は枠が埋まったあとに、Waiting listが開設されて、この2週間の間誰かが履修を取下げてくれることを祈りながら待ちます。

この間に私も「今期TAかReaderをやりたい」というのをシステムに登録します。

Week 0-1: Kickoff meeting & 宿題①問題作成

Lecturer, TA, Readerでキックオフを行います。タスクの割当やSlackの開設をしたりしますが、これも授業によってまちまちです。

最初のタスクとしては、演習授業の担当割当と最初の宿題の問題作成です。

宿題の問題については、これもまちまちですが、我々の場合は4人で分担して問題を作りました。作るといっても膨大な過去問を参考に、数字を変えたりアレンジしたりして使うので1からではありません。

Week 2-3: 宿題①公開

大体授業開始後2週間以内に最初の宿題が出されます。多くの学生もこの宿題の内容を見て履修を取り下げるか続けるかを判断します。

大体締切は二週間後のWeek 4であることが多く、その1週間後に中間試験(Midterm)があります。

Week 4: 宿題①採点開始 & 中間試験(Midterm)問題作成

私が担当した授業では宿題は大問が5個あり、これを130人分採点する必要があります。

大体1問あたり採点に3分はかかり、コレを130人分やると、単純計算で

3分×130人×5問 = 1,950分 = 32時間

かかります。問題によっては5分ぐらい採点にかかるのもあり、採点でかなり研究の時間が潰れます。

後述するGradeScopeというツールはかなり採点を楽にしてくれますが、それでも大変です。

加えて、この期間に中間試験(Midterm)の問題作成もあります。

Week 5: 中間試験(Midterm) & 宿題①採点続き & 宿題②問題作成

米国の授業の場合中間試験(Midterm)と期末試験(Final)の2つ試験があることが殆どです。大学院授業の場合はプロジェクトベースの授業が多いので試験でなく最終発表だったりしますが、学部は数百人履修するので試験形式が多いようです。

試験は授業の教室で行い、80分間で大問5個でした。期末試験(Final)は全授業一律2時間ですが、授業は1コマの時間でやります。

不正受験が無いように、顔と名前が学生証と一致するかしっかり確認します。

Week 6: 宿題①採点返却 & 中間試験採点 & 宿題②公開

採点が終わったら、採点結果を公開します。提出も返却もGradeScope上で行います。授業によってはCanvas(後述)で行うこともありますが、UIの優秀さからGradeScopeが専らになってきています。

日本の大学と異なり、GPAが重要視される米国社会では宿題結果ひとつでも学生との熾烈なやり取りが発生します。

大体どの授業でも、平均・標準偏差・中央値(たまにヒストグラムも)は公開されて、正規分布を仮定すると大体自分が授業のどの辺りにいるかを把握できます。

一応授業評価は絶対評価なのですが、後述する”Curve”は相対的に決まるので自分の順位はかなり大事になります。

採点結果返却から一週間はRegrade Request受付期間となり学生からの申告を受け付けます。このRegrade RequestもGradeScope上のみで受け付けており、対面で対処しないで済むようになってます。

対面で英語でまくし立てられたら、適切に対処できる自信がないのでコレは本当に助かります。

二個目の宿題も中間試験後すぐに公開されます。

Week 7: 中間試験返却& 宿題③問題作成

フローとしては 宿題①と同じく、平均・標準偏差・中央値を公開したあとRegrade Requestを受け付けます。

ただし、中間試験は成績への寄与が宿題より大きいので少しRegrade Requestは増えます。

あとこの授業では中間試験が難しく、平均がかなり低かったので、学生から「”Curve”はどうなりますか?」という質問が出てきます。ただ”Curve”は学期末に教授が決めるので何も答えられません。

Week 8-9: 宿題②採点開始 & 宿題③公開

中間試験を返し終わったのも束の間、すぐに宿題②の採点に入ります。

学生からするとやっと宿題を提出したのに、次の宿題がもう割当られることになります。

宿題も決して軽いものではないので、学部生は4つぐらい授業を取るので、米国大学生は学期中は常に宿題に追われています。

「米国の大学生は勉強する」 and 「日本の学生は勉強しない」はこの辺りから来ています。

ただ忙しすぎて、ラボに所属して研究活動とかには支障があるので、忙しければ良いというわけでもないです。

Week 10: 宿題②返却 & 宿題③採点開始 & 期末試験作成

流石に慣れてきますが、採点とRegrade Request対応でかなり忙しいです。期末試験も中間試験と同じように作成します。

Week 11: 宿題③採点続き & 期末試験

期末試験は中間試験とことなり、学科から場所と時間がアナウンスされます。時間は2時間で大問8つでした。

Week 12: 宿題③返却 & 期末試験返却 & 最終成績確定

最終成績の確定が期末試験後1週間という鬼スケジュールで組まれており、これがかなり大変です。事前にアナウンスしてRegrade Requestの受付期間を24時間にしてなんとか間に合わせました。

最終成績(レターグレード)と”Curve”

前述の通り、この授業は3宿題+2試験の構成になっており、各宿題が16%、各試験が26%で最終成績が決定されます。

この最終成績の決め方は必ず最初の授業でアナウンスされ、学生はこれも考慮にいれて履修を決めます。

このように、かなりシステマチックに成績が決まるため、オンラインでも十分に運用できます。近年オンライン修士が流行っているのはこの辺りもありそうです。

最終成績は一応絶対評価になっており、UCIの推奨だとこんな感じになっています。

A+ A A- 94–100% 94–100% 90–93%
B+ B B- 86–89% 83–85% 80–82%
C+ C C- 76–79% 73–75% 70–72%
D+ D D- 66–69% 63–65% 60–62%

例えばA-の場合、課題とテストの前述の割合での加重和が90–93%であれば貰える事になります。

一応、D-まで単位が出ますが、GPAは悲惨なことになります。GPA3.0維持にはB以上が必要です。

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Ph.D.学生の場合はGPA3.5を維持しないと行けないので、A-以上が必要になります。ただ大学院の授業は評価が甘めな感じはあります。

しかし問題として、生の課題とテストの加重和を当てはめると、殆どの学生がB-すら厳しい事態が発生します。これを緩和するために”Curve”と呼ばれる点数補正が入ります。

”Curve”の仕方は授業や教授によってまちまちですが、単に全員に定数を足して下駄を履かせたり、正規分布にフィットしてパーセンタイルで評価したり色々ありますが、基本は公開されません。

ただ”Curve”は基本的にクラス内の状況で決まるので、成績評価は実質相対評価になります。

感覚的には大体平均ぐらいにいるとB+が来るイメージです。

米国大学の授業運用三種の神器

学部授業の場合、数百人が履修するのはざらなので、システマチックに運用する必要があります。これを可能にする3つのツールがあり、全米の大学でおそらく導入されています。

Canvas

Canvasは授業評価用の統合サービスで、大学の履修・成績システムと紐付いており、一応評価・宿題提出・試験返却など一通りのことが出来る様になっています。

ただかゆいところに手が届かないため、他の2つのツールが必要になってきます

Piazza

Piazzaは授業掲示板で、授業のアナウンスや学生からの質問もPiazza上で行うことが出来ます。学生間でも質問に答えあったりしてくれるので、授業運営の負担が減ります。

あとここに告知すると残るので、言った言わない論争を避けることができます。日本の大学でも導入すると良い気がします。

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GradeScope

GradeScopeは採点を劇的に楽にしてくれるツールです。宿題提出はPDFでGradeScope上にあげてもらい、試験は我々はスキャンしてアップロードした後、オンラインで返却します。

スキャンした結果が残るので、返却後に改竄という自体も防げます。

スキャンもものすごい簡単で自動採点もあり、もうコレなしでは採点業務は考えられません。

その他業務

Office Hour

毎週1時間、学生の質問を受け付けるoffice hourを開催します。LecturerのOffice hourは別にありますが、TA陣も別途も行います。

一番来るのは宿題を公開した後で、問題文がよくわからない学生が質問に来ます。あと試験前はOffice hourを延長して対応します。

ただ今回の授業はPiazzaも後述するDiscussionもあったのでOffice hourはそんなに忙しくありませんでした。

Discussion(演習授業)

授業自体は週に80分×2コマですが、Discussionと呼ばれる授業で習ったところの演習問題をTAが解説する授業が毎週あります。

少人数指導にするため学生は履修時に決まった4つのセッションのどれかに参加します。1セッションは50分ですがTAは50分×4セッションをやるのでかなり疲れます。

まとめ

こんな感じに米国の授業はかなりシステマチックに運用されています。

GPAがかなり重要視される社会なので、評価の透明性やRegrade requestによる納得感の向上などに気をつかっており、まさに大学教育はサービス業という感じがあります。

ただこの数百人規模の授業は教育効果としてどうなんだ?という疑問は最もで、米国の上流階級が有名私立大学に行かせたがる理由もわかります。州立の研究大学の学部教育はかなり大味です。